ハンス・アスペルガーとナチスとの関連
数日前に、こんなニュースを見つけました。
アスペルガー症候群の名称の由来となった、オーストリア人医師の
ハンス・アスペルガーがナチスと深いかかわりがあったというものです。
『Asperger's Children: The Origins of Autism in Nazi Vienna』
という本がもうすぐ出るらしいというのはAmazonで知っていたので
何やら物議を醸しそうだとは思っていましたが、
同時にめんどくさいことになりそうだとも思っています。
この記事では「疾患や障害に人の名をつけるのは、
その人の功績を認め称賛するためであって、
アスペルガーはそのどちらにも値しない」とあって、それはもっともなのですが、
個人的には、ハンス・アスペルガーに対して元々感謝の念があるわけでもなく、
何も思い入れがないので、名称が変わるのはめんどくさい、
どっちでもよいというのが正直なところです。
「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」というカテゴリーに
入りましたが、これだけでもややこしくなったんです。
知的障害を伴う自閉症(カナー症候群)とアスペルガー症候群では
ニーズが違うのに、同じ言葉でまとめられてしまったからです。
たまに、「自閉スペクトラム症」という名称になったのだから、
アスペルガーという言葉を使うのはやめてほしい、という人がいますが、
カナー症候群とアスペルガー症候群に共通することを
話題にする分にはそれでいいですが、
それぞれに特徴的なことについて言及するときには分けざるを得ません。
そんなわけで、それだけでもややこしくなったのに、
また名称について議論が起こるのかと思うと、
やれやれ、といったところです。
たとえば本の翻訳なんかは
原書が出てから数年たって翻訳されることが多いわけです。
そう考えると、まだ翻訳されていない原書が今後翻訳されるときに、
今回の件に関連して「アスペルガー」という呼称は使わないでほしい、云々、
という意見も多々出てくるだろうと思います。
そうすると編集作業もかなり面倒なことになってくる。
じゃあ、「アスペルガー」がつくタイトルの本は
この議論が収まるまで当分見合わせようか、なんてことにもなりかねません。
ただでさえ日本に入ってくる情報は遅いのに、さらに遅れます。
ちなみに、日本の記事は前述の引用箇所で終わっていますが、
『The Gardian』では次のように続いています。
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著者は、この研究結果を受け入れるのは自閉症の人たちやその家族にはつらいものとなるだろうと認めているが、明らかにせざるをえなかったと話している。
「耳にするのがどれほど耐え難いことだとしても、この情報を公表しなかったとしたら、間違いだっただろう。」と著者は述べている。「一方、自閉症の研究に対するアスペルガーの貢献がナチス時代の彼の問題ある役割によって損なわれることを示す証拠はない。そのため、医学用語からアスペルガーという用語をなくしても何にもならないだろう。それよりも、過去を検証してそこから教訓を学ぶ機会とすべきである。」
英国自閉症協会の自閉症センター理事長であるキャロル・ポベイ氏は次のように述べている。「この知見は自閉症の人たちとその家族、特に、「アスペルガー」と名乗っている人たちの間で大きな議論を呼ぶと予想されます。言うまでもなく、この非常に心の痛む歴史によって、アスペルガー症候群の診断を受けている人が汚れていると感じるようなことが多少なりともあってはなりません。」(以上、拙訳)
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これはとっても大切な部分だと思うのですが、なぜ日本のメディアは
センセーショナルな面だけを取り上げるのでしょうか。
私も今回の研究結果は事実として受け止めていますが、
もちろん気分のいいものではありません。
けれども、医学的分類上(単なる便宜上)付けられた名称が何であれ、
私が悪いわけではないし、何ら後ろめたく思う必要はないわけです。
だから、同じ問題を抱える人たちも、このニュースを聞いて
後ろ暗い気持ちになってほしくないと思います。
ただでさえ、アスペルガー症候群であるという事実は話しにくいのに、
さらに輪をかけて、話題にしにくくなるという状況にならないことを願います。
変にパニックになって、この日本の記事だけをツイッターなどで
考えなしに拡散して不安を煽らないように気をつけたいところです。
それから、この研究結果から「ほら、やっぱり。
単なる個性にすぎないものをナチスがでっち上げただけ」
と言い出す人も出てくると思いますが、
アスペルガーという枠組みを通して初めて解決できる問題もあるので、
短絡的には捉えてほしくないですね。
専念してもらいたいものです。
論文はこちらで全文が読めます。
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