2冊目の翻訳書がそろそろ出版されます。
本当は去年に出版されるはずが、コロナの影響でこの時期になりました。
出版社からお話をいただいて訳した本ですが、とてもいい本です。
カップルの片方にアスペルガーがある場合のパートナーシップについての本ですが、
いわゆるカサンドラ本とはちょっと違い、
カップルがふたり揃って取り組める内容になっています。
具体的なワークが満載で、
定型発達のカップルでも参考にできる部分は大きいと思います。
献本を手にしてふと思ったのは、
そういえば、将来翻訳書を出すなんて、かつての私は想像もしなかったなということ。
実のところ、翻訳を生業にしたいと思ったことなどなかったのです。
ちなみに、英語の成績は悪くはなかったけれど、
特に英語を使った仕事をしたいと考えたこともありませんでした。
英会話は得意ではないし。
というか、日本語ですら会話は得意とは言い難いので(笑)。
それがどうして翻訳の仕事をすることになったかというと、
あくまでも食べていくため。
まあ、感動した小説があって、
こんな作品を訳せたらいいなと思ったことはありますが、
そこまで文章力があるわけでもなく、
ましてや出版翻訳なんて食べられるわけがない。
そもそも、翻訳というのは帰国子女だとか、
英文科を出た人がやるものだと思っていました。
実際、翻訳を生業にしていると言うと、
帰国子女なんですかとか、英文科ご出身ですか、
なんて訊かれることがよくあります。
きっかけとなったのは、誰だったか忘れてしまったけれど、
ある翻訳家の人がインタビューで
「おおらかで細かいことを気にしない人は翻訳の仕事に向いていない」
というようなことを言っていて、
じゃあ、私向いてるかも、と思ったことでした。
「おおらかで細かいことを気にしない人」って、
世間一般では美徳のように考えられがちなので、
そうでない自分にずっとコンプレックスがあったのです。
でも、その一言で目からウロコ。
それから実務翻訳の勉強を始めて、医薬分野の仕事を請け負うようになり、
訳したい本があったので、まるまる1冊訳して出版社に送って
出版されることになったのが1冊目。
2冊目の今回は、別の本をまるまる訳して出版社に送ったところ、
それはボツになったのですが、別のお話をいただいた、という流れでした。
なんで出版されるかどうかもわからない本をわざわざ1冊訳したかというと、
出版翻訳は未経験だったので、きちんと1冊訳せるか不安だったのと、
実績がない人間が翻訳力をわかってもらうには
そうするのがいちばんだろうと思ったからです。
もちろん、時間も労力もとてつもなくかかりましたが。
で、実際に翻訳の仕事に携わって10年以上。
「おおらかで細かいことを気にしない人は翻訳の仕事に向いていない」
というのはまったくその通りだと思います。
「英語が得意=翻訳ができる」という公式は必ずしも成り立たず、
実際には、英語力が多少低くても、ちまちま辞書を引いたり
不明箇所を明らかにすべくネットの大海を泳いで謎解きをしたりする
根気があるかどうかの方がよっぽど大事。
もちろん、和訳であればある程度の日本語の文章力は必須。
実務翻訳となると、何が何でも納期は厳守。
たとえば、非の打ち所がない素晴らしい訳文を仕上げられたとしても
納期には遅れる、誤字脱字がやたらと多い、
仕事の打診への返信が遅い人よりも、
80点ぐらいの出来の訳文でも、納期は絶対守る、
誤字脱字が少ない、仕事の打診への返信が素早い人の方が重宝されます。
翻訳は英語の得意な人がやるものと思い込んだまま、
細かいことにやたらとこだわることを欠点としか捉えていなかったら、
今の私はなかったでしょう。
新刊でも、アスペルガーのあるパートナーの長所を活かしましょう
という箇所があります。
自分の嫌な面、相手の嫌な面、あらためてリフレーミングして
活用してみてはいかがでしょう。
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