それでも雨が降るときは

ホリスティックに発達障害とつきあう

翻訳書を出版しました。『ガイド 壮年期のアスペルガー症候群:大人になってからの診断は人生をどう変えるか』

2年ほど前に訳し始めた本がようやく出版されました。

原書を読んで誰に頼まれてもいないのに勝手に訳し始め

(すでにどこかの出版社が翻訳権を入手しているかもしれないことを百も承知で)、

その後、紆余曲折を経て、やっと皆さんにお届けできることになり、

ホッとしています。

ちなみに販売はAmazonと版元のスペクトラム出版社のみです。

一般書店には置かれていません。

注:Amazonでは現時点でタイトル以外のデータがまだ載っていませんが、

ご注文いただけます。

  

 

は『Very Late Diagnosis of Asperger Syndrome 

(Autism Spectrum Disorder) -

How Seeking a Diagnosis in Adulthood Can Change Your Life』。

 

邦題は『壮年期のアスペルガー症候群』で、「壮年期」とありますが、

特に壮年期に限らず、副題の通り、

「大人になってからの診断は人生をどう変えるか」ということが

テーマになっているので、もちろん青年期の方にも読んでいただけます。

また、診断をめぐるアイデンティティの問題という点では、

ADHDの方にも参考にしていただけると思います。

  

著者のフィリップ・ワイリーはさまざまな経歴を経て、

51歳でアスペルガーと診断されています。

 

日本では欧米に比べて自閉症スペクトラムに対する認識や理解が

遅れていますが、近年になって成人のアスペルガーに関する本が多数出版され、

アスペルガーの特徴は広く知られるようになってきました。

 

現在、日本で出版されている成人のアスペルガーに関する本は、

大半が専門家によって書かれ、

主にその特徴や診断後の対処法を取り上げたものか、

成人当事者による手記や対処法です。

 

この本は、アスペルガーに関する説明にはあまりページを割いておらず、

すでにアスペルガーについてある程度の知識をもち、

自分自身が自閉症スペクトラムに該当するのではないかと疑っている成人や

診断を受けたばかりの成人、特に人生の遅くになって診断を受けた成人を

対象としています。

 

日本で既刊の成人向けアスペルガー本は主に青年期の当事者を

対象としている感がありますが、本書は壮年期以降の当事者を対象として、

大変ながらもある程度何とか人生を切り抜けてきた人に特有な、

人生の遅い時期に診断を受けた場合に示す反応や心理面について

重点的に論じています。

 

特に、他に類を見ない点として、

診断前後の心理的な過程をアイデンティティの観点から考察し、

死と臨終を受容する過程についてのエリザベス・キューブラー・ロス

五段階モデル(否認・怒り・取引・抑うつ・受容)を

応用していることが挙げられます。

 

本書は、当事者が診断前後のアイデンティティの危機を乗り越えて、

アスペルガーの特徴を理解してそれを活かしながら、

新たなアイデンティティを形成していく際に役立つのではないかと思います。

 

最近になって、診断がつくほどではないグレーゾーンのアスペルガー

についても認識され始めたことから、

自分とは無縁だと思っていた自閉症というものに、

もしかしたら自分も該当するのではないかと知って

戸惑っている成人も多くいるのではないかと考えられます。

また、お子さんが発達障害の診断を受けたことをきっかけに、

自分にも発達障害の特性があることに気づいて、

それをどう受け止めたらよいのかわからずに戸惑っている方も

いらっしゃるはずです。

  

オフ会などに参加して「発達障害あるある」話で盛り上がれる人はいいですが、

そうしたこともできない人も多いかと思います。

また、カウンセラーに相談しようにもお金がない人もいるでしょう。

そもそも自閉圏の人間は自分のことを即座に言葉にするのが苦手なので

カウンセリングも躊躇することもあるでしょうし(私も苦手)、

こうしてブログを書くなどして言語化できない場合もあります。

 

ある程度これまで社会でやってこれた人は、

自分に発達障害があるのではないかと周りに話しても

相手にされないことがほとんどだと思います。

それでひとりで抱え込んで悶々としている人たちが

少なくないのではないかと思ったのです。

 

そうした今、この本はそのような人たちが自分に対する認識を改め、

新しい人生を切り開いていく助けとなるのではないかと思います。

また、精神科医を含めた支援者側にとっても、

実際の診断に対して当事者がどのように感じるのか、

また診断後に当事者がそれをどのように受け止めて

どのように人生を切り開いていくのか、

海外ではそのプロセスをどのように支援しているのかを知ることで

大きく役立つと思います。

 

現時点ではAmazonの商品ページにタイトル以外のデータがまだ

載っていませんが、内容は次の通りです。

 

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

ルーク・ベアドンによるまえがき

サラ・ヒースによるまえがき

謝辞

序文

はじめにアスペルガー症候群の遅れた診断とは

 

第1章 自閉症スペクトラム障害の遅れた診断の各段階

 

人と違うことを知る/自分にASDがあることについて外部の反応や手がかりを得る/普通を装ってセルフ・アイデンティフィケーションに抵抗する可能性/セルフ・アイデンティフィケーションという転帰への到達/ASDについて調べて自己発見に至る/ASDの診断前評価と診断を受ける/「カミングアウト」をして打ち明ける相手を決める/理解を深めて自己を受容する/持続可能な未来を築く

 

第2章 診断前を生きる

 

精神的な傷になることがあるセルフ・アイデンティフィケーション後の危機/サポートの欠如精神的な不健康/精神疲労併存疾患怒りのコントロールの問題誤診のリスクASD当事者にとっての困難な課題(失業自尊感情の低さ/見捨てられ/孤立感/ペアレンティング自傷行為と自殺のリスク)

 

第3章 診断前評価と診断

 

自己評価(遺伝的経路幼児期の発達問題自己評価テスト)/診断前評価/正式な診断/診断後評価とサポート(その他の精神測定テスト/エニアグラム/マイヤーズ・ブリッグズ・テスト)/まとめ

 

第4章 診断のメリットとデメリット

 

メリットとデメリット(自分の長所と短所に気づける/支援サービスを利用できるコミュニケーションが改善することによるメリット/法的な権利を知る適した職を見つける/確証として専門家から書面の証拠を得る過去の問題についての合理的な解釈を見つける/引き寄せの法則に気づく自分自身についての理解を深める/人間関係を改善する)/診断のデメリット(診断にかかる費用/誤診のリスク/決して納得しない人たちの存在/「カミングアウト」の大失敗/アイデンティティ・アラインメントの危機)

 

第5章 自閉症スペクトラム障害の遅れた診断に対してよく見られる反応

 

自己崩壊混乱怒り安堵心の健康不良その他の反応拒絶反応を和らげる
キューブラー・ロス・モデル(否認(第一段階)/怒り(第二段階)/取引(第三段階)/抑うつ(第四段階)受容(第五段階))/新たな自己アイデンティティに対する反応の四つの段階/シャーマニック・ヒーラーの見解

 

第6章 「カミングアウト」プロセス

 

打ち明ける相手に選ぶ人の主なグループ(親や親類/雇用主/友人や知人/現在のパートナーまたはパートナーとなる可能性のある相手まとめ

 

第7章 自閉症スペクトラム障害の遅れた診断を受けてから充実した人生を送るには

 

対処法(コミュニケーション戦略/自己主張トレーニング/販売テクニック怒りのコントロール/リラックス/サポートを受けるメンタリング/コーチング)/家庭生活/お金/適切な仕事を見つける/愛情と人間関係(特定の関心事に対する情熱/家族からの無条件の愛/真に支えとなる友人/思いやりのあるパートナー)/健康/ライフスタイル/最後に

 

解説


訳者あとがき

 

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

解説は当事者であり、カウンセラーでもある

吉濱ツトムさんにお願いしました。

本書には診断を受けた後の具体的な改善方法は書かれていませんので、

それを知らない場合は結局途方に暮れることにもなりかねません。

 

吉濱さんは改善策について、仕事、人間関係、恋愛、結婚、子育てなど、

多岐にわたって多数の本を書いていらっしゃいます。

その内容はとにかく具体的で、私が以前にブログに書いた、

体温調節をできるようにするためには温冷浴」、

頭がパンパンなときは紙に書き出して一度頭から出す」などの

イデアは吉濱さんから教わったものです。

体温調節の問題は、診断医に話した際には

発達障害の方は体温調節できないことが多いんですよね」で

終わってしまいました。

 

とにかく引き出しが多い方なので、本にも発達障害者の人生改善の

ヒントがたくさん書かれています。

自分の問題は自覚したけれど、それをどうやって改善したらいいのか

わからないという方にはおススメです。

  

発達障害の人のための上手に「人付き合い」ができるようになる本

発達障害の人のための上手に「人付き合い」ができるようになる本

 

  

隠れ発達障害という才能を活かす逆転の成功法則

隠れ発達障害という才能を活かす逆転の成功法則

 

  

発達障害の子どもがぐんぐん伸びるアイデアノート

発達障害の子どもがぐんぐん伸びるアイデアノート

 

  

隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛

隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛

 

  

発達障害と結婚 (イースト新書)

発達障害と結婚 (イースト新書)

 

  

 

『壮年期のアスペルガー症候群』を訳しながら、

私自身が、アスペルガーのある自分というものを実はずいぶん長いあいだ

受け入れられていなかったのだということに気づきました。

それについてはこちらに書いてみましたので、興味がある方はどうぞ。

 

 

出版翻訳は初めてなので、読みづらい箇所が多々あるかもしれませんが、

とりあえずは現時点でのベストを尽くしました。

拙訳が皆さんのお力になれば幸いです。

 

また、発達障害のことなど、私に答えられることであればお答えしますので

メールにてお気軽にご相談ください。

e-mail: manakawasemi(a)gmail.com((a)を@に)

 

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

本格的にカウンセリングを受けたい方はこちらを。